トップページ知る・楽しむ過去イベント母から娘に伝えたいモノやコト ›『母のねんねこ半纏(はんてん)』

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「母から娘へ伝えたいモノやコト」

『母のねんねこ半纏(はんてん)』

愛知県一宮市 江間美紀

古い写真の中の小さな私は"ねんねこ半纏"から顔だけを出し、母の背中におぶわれている。時折、ふと母の背中越しに見た、古い家の中の風景を思い出す時、懐かしく優しい何かが甦ることがある。

私が初めての子供を産んだ時、いろいろなものを母が用意してくれた。その中にいわゆる「亀の甲」と呼ばれる、母特製のねんねこ半纏があった。今ではなかなか見かけることのない、胸のところで交差する、あのおんぶ紐の一種だ。初めはとても抵抗があった。授乳期で、ただでさえパンパンに張って目立つ胸を更に目立たせるあのデザイン。

今はリュック型のものや、前に子供を抱く形のものが主流なのに...。とにかくお洒落じゃない。しかし母に勧められるまま、家の中だけで使ってみるとこれがなかなかいいのだ。まず冬は親も子も温かい。リュック式のと違って、ぐずって暴れる子を押えつけなくても、寝かせた状態からヒョイ、とおぶうことができる。そして寝入ってしまった子を下ろす時、そのまま布団代わりにもなる。

いつのまにか、家事をする時はもちろん、ちょっとした散歩くらいならそのまま出掛けるようになり、気がつくと手離せなくなっていた。娘もカンガルーの袋の中のように安心するのか、とてもおとなしく、ご機嫌になる。

ある日、紐がボロボロになっていたのでベビー用品の店に買いに行くと、もう扱っていないと言われた。別の店で見つけた時店員が、「買っていかれるのは孫をおぶうおばあちゃんばかり。あなたみたいな若い人は珍しいわ」と。確かにそうだろう。そして母が作ってくれた物に改めて感謝した。

おぶう私の肩が痛まないよう綿を入れ、親が手を離していても、子が落ちないようお尻の下で結ぶため長くした紐。市販の物にはない工夫と優しさがそこにはあった。母の背中で寝入ってしまった私の娘を、ねんねこ半纏ごと布団に下ろしながら、首に巻きつかないようにと紐を短く結んでいる母の姿を見てきた私は、きっといつか"ねんねこ半纏"を作るだろう。娘と、その子供にあの温かさを伝えるために。

作家 桐島洋子氏選評
もう時代遅れと思われているあの野暮ったいねんねこ半纏が、実は母の慈愛と知恵が濃やかに行き届いた不朽のスグレモノであることを、見事に説得してくれる。その文章自体がねんねこ半纏のように素朴で優しく暖かく、ホッと心安らぐ読み心地だった。
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